東京地方裁判所 昭和53年(ワ)11836号 判決 1980年1月28日
原告
八千代信用金庫
右代表者
新納太郎
右訴訟代理人
坂本建之助
同
浅野晋
被告
村松一郎
右訴訟代理人
平松久生
主文
1 被告が、訴外ベニバナ観光株式会社に対する大阪法務局所属公証人松田数馬作成昭和五三年第三〇一七号公正証書の執行力ある正本に基づき、昭和五三年一一月二一日別紙第一目録記載の物件に対してなした強制執行はこれを許さない。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 当裁判所が昭和五三年一二月一日にした昭和五三年(モ)第一七九九二号強制執行停止決定を認可する。
4 前項にかぎり仮に執行することができる。
事実《省略》
理由
一請求の原因1、3の(一)及び(二)の事実は当事者間に争いがない。
二よつて、まず本訴の異議原因のうち抵当権に基づくもの(請求の原因3)の当否について判断する。
1 被告は、原告主張の抵当権を理由とする異議原因は、第三者異議の訴えの異議原因たり得ない旨主張する。
一般には、抵当権者は第三者異議の訴えを提起できないものである。けれども、原告の右主張は、被告が差し押えた本訴物件は、原告が根抵当権を有する本件ビルのいわゆる附加物(民法三七〇条)にあたるとして、右根抵当の侵害を理由にその差押の排除を求めるというのである。このような場合、右差押は根抵当権者の把握した担保価値を減少させるものであるから、根抵当権に基づく右主張は、第三者異議の訴えの異議原因となりうることは明らかであるので、被告の右主張は失当である。
2 そこで、本訴物件について本件ビルの根抵当権の効力が及ぶものであるか否かについて検討する。
(一) 冷暖器(別紙第一目録の一)について
<証拠>によると、右冷暖器は、本件ビルの四階から一一階までの各階の壁面に八個ずつ取り付けられた冷暖器設備で、縦40.7センチメートル、横106.7センチメートル、奥行四八センチメートルの大きさで、八〇キログラムのから八七キログラムの重量のものであること、本件ビルの右各階は、右冷暖器を埋め込むことができるように設計され、右各階の壁面には右冷暖器の大きさに合わせた穴が空けられており、右冷暖器はその箇所にボルトで固着する方法で据付けられ、かつ、ビルの内部と外部とを遮断する壁の役割をも果していること、以上の事実が認められる。
(二) 空調器(別紙第一目録の二)について
<証拠>によると、右空調器は、「屋内ユニツト」と呼ばれ、本件ビルの二階及び三階の所定の置場に据付けられており、そうして、本件ビル三階の機械室の「屋外ユニツト」に配管結合され、「屋外ユニツト」と一体をなして右二、三階に冷・暖気を送る空調設備であること、右空調器は縦147.1センチメートル、横78.8センチメートル、奥行58.9センチメートルの大きさで、一二七キログラムの重量のものであること、以上の事実が認められる。
(三) エレベーターリレー及びスパライン(別紙第一目録の三及び四)について
<証拠>によると、右エレベーターリレーは、本件ビルに設けられているエレベーターの扉の開閉、各階の停止などの運行制御を行なうもので、エレベーターの構成部分をなす一機器であり、本件ビル一一階屋上のエレベーター機械室に他の制御機器と共に収納されていることが認められる。
<証拠>によれば、右スパラインの正しい名称はスーパーラインであり、これは本件ビルのエレベーターの巻上機(エレベーターのロープを巻き上げるもの。)を作動させるための電動機(モーター)であつて、前記エレベーター機械室にボルトで固着して据付けられており、エレベーターの構成部分であることが認められる。
(四) キユービクル(別紙第一目録の五)について
<証拠>によると、右キユービクルは、本件ビルにおいて自家用変電を行なうための変圧器、開閉器、オイルスイツチ等の機器及びこれらを内蔵した鉄製の外箱を含む設備一式であつて、本件ビル一一階の屋上の据付台にボルトで固着する方法で設置されていること、右キユービクルは本件ビルの需要電力量に応じて製作された特記仕様に基づく特注品であるので、これを取り外すときは、その価額は著しく減少するものであること、以上の事実を認めることができる。
(五) 右(一)から(四)までの認定の事実によると、次に述べるとおり本訴物件は本件ビルに従として附合した物(民法二四二条)であると認めるのが相当であるから、したがつて、原告主張の根抵当権の効力が及ぶものというべきである。すなわち、
本件ビルが地上一一階建、床面積の合計一九二二平方メートルに及ぶ事務所、店舗、駐車場の高層建築物であることは弁論の全趣旨により明らかであるところ、このような本件ビルにおいては、冷暖房の空調設備、エレベーター、変電設備が必要不可欠のものであることは経験則上容易に肯定しうるところである。
そうして、右各設備を本件ビルから取り外すときは、本件ビルの経済的価値を著しく毀損させることになるものであり、他方右各設備自体は本件ビルの構造及び形状等に応じ具体的な設計により設備されたものであることからすると、右各設備を本件ビルから分離するときは、その社会経済的価値が著しく損われるものであることも明らかである。
したがつて、本件ビルの冷暖房の空調設備である本件冷暖器及び空調器並びにエレベーター設備の構成部分の一機器である本件エレベーターリレー及びスーパーライン並びに変電設備である本件キユービクルは、いずれも本件ビルに従として附合した物にあたると解するのが相当である。
(六) (仮に、本訴物件が右に述べた附合物と認めることができないとしても、前記認定の事実によれば、本訴物件は本件ビルの常用に供されているものであることを推認することができ、また右物件がもと丸三商事の所有であつたことについては当事者間に争いがないから、本件ビルの従物にあたることは明らかである。そうして、<証拠>によると、本訴物件は本件ビルの建築完成時には設置されていたことが認められるから、本件根抵当権設定当時には存在していたということができる。したがつて、本訴物件に本件根抵当権の効力が及んでいるとする前記(五)の冒頭の結論は、この場合であつても変りがない。)
三してみると、本件ビルの根抵当権を理由として、その効力の及ぶ本訴物件に対してされた強制執行の排除を求める原告の本訴請求は、その余の主張について判断を進めるまでもなく理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、強制執行停止決定の認可及びその仮執行の宣言について同法五四九条、五四八条一・二項を適用して主文のとおり判決する。
(菅原晴郎)
第一、第二、第三目録<省略>